WP_Ch.2_第二章のルールを適用する APPLYING THE RULES
第二章のルールを適用する APPLYING THE RULES
この章で議論された規則(前回の章も含む)を適用して、一つの長い文章の中での議論を読み、評価してみよう。以下の抜粋 following excerpt は、神 God の存在を論じる有名な議論の一側面に焦点を当てている。文章を読み、それに続くコメントを確認しよう。
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宇宙のデザイン論証〔神の目的論的論証〕 The Design Argument
1. 神の存在のための最も頻繁に使われる議論の一つは、デザインの議論であり、時折目的論的論証 the Teleological Argument(ギリシャ語の telos、すなわち「目的」から)とも呼ばれます。これは、自然界を見渡すと、その中のすべてがそれが果たす機能に適していることに注目せざるを得ないと主張します。すべてが設計された証拠を示しているとされ、これによって(1柱の)創造主の存在を証明するものです。たとえば、人間の目を調べてみれば、その微細な部分がすべてうまく組み合わさり、それぞれが明らかに作られた目的に合っているのがわかります:見るためです。
2. これまでに挙げられた反論にもかかわらず、デザイン論証がたとえ説得力があると考える場合でも、それは唯一つであり、全能であり、全知であり、全善である神の存在を証明するわけではないことに気づくはずです。議論を細かく検証すると、いくつかの点でその限定性が明らかになります。
3. まず第一に、この議論は完全に一神教を支持しない━━つまり、ただ1柱の神が存在するという見解を支持しないということです。もしも世界とその中のすべてが明らかに設計された証拠を示していると受け入れるならば、それが1柱の神によってすべてが設計されたと信じる理由はありません。なぜなら、それはより小さい神々が協力して作業した可能性があるからです。実際、ほとんどの大規模で複雑な人間の建造物、例えば超高層ビル、ピラミッド、宇宙ロケットなどは、複数の個人のチームによって作られました。したがって、もし私たちがその類推を論理的な結論に導くならば、世界は神々のチームによって設計されたと信じるべきです。
4. 第二に、この議論は必ずしもデザイナー(またはデザイナーたち)が全能であるという見解を支持していません。宇宙にはいくつかの「設計上の欠陥」があると主張できるでしょう。例えば、人間の目は近視や老化による白内障の傾向があり、これは全能な創造主が最善の世界を作りたがっているとは言えないものです。こうした観察から、宇宙のデザイナーは全能ではなく、比較的弱い神または神々、あるいは能力を試す若い神かもしれないと考える人もいるかもしれません。もしかすると、宇宙を創造した後、デザイナーはすぐに死んでしまい、それを自動的に運行させているのかもしれません。デザインの議論は、神秘主義者が描く神の存在の証拠と同じくらい、異なる種類の神または神々の存在を証明するものとして少なくとも同じだけの証拠を提供しています。したがって、デザインの議論だけでは神秘主義者が描く神の存在よりも、他の種類の神または神々の存在を証明することはできません。
Excerpted from Chapter 1 of Nigel Warburton, Philosophy: The Basics (London: Routledge, 2000), 12, 14-15. Reproduce by permission of the publisher.
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論証評価を成功させるためには、我々はテキストにオープンマインドで〔事前の偏見を排して〕アプローチしなければならない(Rule 1-1)。そして積極的かつ批判的〔分析的〕に読み(Rule 1-2)、十全な理解に努めるようにしなければならない。それを行なった後、我々の最優先事項 top priority は結論と諸前提の特定である(Rule 1-3)。そしてそれから、アウトラインを書き出し、パラフレーズを行ない、論証全体を要約する(Rule 1-4)。我々の究極的な課題は論証を評価することであり、論証について仮の判断 Tentative Judgement を形成することである(Rule 1-5)。そしてそのことは多様なタイプの論証に対する良き理解を持つことを意味する(Rule 2-1)。そうすることで、我々は論証が妥当 valid なのか強力 strong なのか(Rule 2-2)と諸前提が真なのか(Rule 2-3)を決めることができるのだ。
この論証は〔デザイン〕論証に対する論証である。
〔■論証の分析を手順にしたがっておこなう〕
1. 〔手順:論証の結論を見抜く〕
結論を特定するために、indicator words を探そう。この文章では So を見つけることができる。
結論を支える2つの前提を見つけることができる。
2. 〔手順:論証のアウトラインを抜き取り、箇条書きにして並べる〕
前提1:たとえ君が世界とその中にある万物は明白に設計されたものである証拠を示していることを受け入れるとしても、それが1柱の神によってすべて設計されたと君が信じることとは関係が無い。
前提2:設計者(もしくは設計者たち)が全能 all-powerful であるという見解をこの〔デザイン〕論証は必ずしも支持しない。
結論:だから、有神論者の神 God こそが、何らかの他のタイプの神や神々よりも存在することを、デザイン論証は単独で証明できない。
3. 〔手順:アウトラインをパラフレーズして明確にする〕
明晰にするために、この論証を次のように言い換えることができる。
前提1:デザイン論証は、世界が唯一の神によって創造されたのでなければならないことを示していない。
前提2:デザイン論証は、世界が全能の神によって創造されたのでなければならないことを示していない。
結論:したがって、デザイン論証は、伝統的な神(〔唯一性〕、全能、全知、かつ道徳的に完全)が何らかの他のタイプの神あるいは神々よりも存在することを示していない。
4. 〔手順:ルールを適用する。まず演繹的論証か帰納的論証か判別し、導出を確認〕
さて、我々はRule 2-2によって命じられる重要な問い、すなわち「その結論はそれらの諸前提から導かれるか?」をたずねる。この場合、我々はイエスと言うべきであろう。〔というのも〕もしデザイン論証は創造者が1柱の神であると示すことに失敗し、かつ、それが全能であると示すことも失敗するなら、我々が結論しなければならない〔導かなければならない〕ことは、デザイン論証は伝統的な神 God が存在すると示すことに失敗していることである〔からだ〕。すなわち、抜粋著者〔ウォーバートン〕の論証は妥当 valid である。
5. 〔手順:ルールを適用する。前提の事実性を確認する〕
次に、Rule 2-3、すなわち、諸前提は真か?である。この抜粋を研究することによって、我々がみてとれるのは、デザイン論証が、たとえ強い strong 論証であるとしても、世界が設計者(または設計者たち)を確率的に持つことしか主張していないということである。いずれにせよ、この論証は設計者が何らかの区別できる特徴を持っていることを示していない。もしこのことがまさに当てはまるなら、前提1は真でなければならない。すなわち、設計者は唯一でも多数でもあり得るだろう。同様に、前提2も真でなければならない。すなわち、設計者は全能よりも弱いかもしれない。
6. 〔手順:分析の結果をみて、仮の判断 Tentative Judgement を下す〕
これらの分析にもとづいて、我々は抜粋著者の論証が健全 soundであることがわかる。すなわち、我々の抜粋に示されたデザイン論証は伝統的な属性を持った神 God の存在を証明していないということである。
だが、この分析結果は仮の判断であり、最終判断ではない。この論点 issue に関連はするが我々がまだ考慮していない複数の論証が存在する。
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第2章まとめ QUICK REVIEW : Basic Definitions (p.42)
1. 命題(=文) Statement: 何かが当該の事情に当てはまるか否かについての主張である。ひとつの命題 statement は真または偽のどちらかである 。
2. 論証 Argument: 複数の命題の組合せであり、そこでは一部の命題が他のひとつの命題を支持する support ように意図されている。支持を提供するように想定される諸々の命題は前提である。一方、支持を受ける命題は結論である。
3. 演繹(えんえき)的論証 Deductive argument: 論理的に決定的な〔=100%確実な〕支持がその結論に提供されていると想定される論証。演繹的論証は妥当 valid かもしくは 非妥当 invalid のどちらか一方である。真の前提を伴うvalidな論証は健全 sound と呼ばれる。
4. 帰納的論証 Inductive argument: 蓋然的(がいぜんてき、確率的) probable な支持をその結論に提供するよう意図された論証。帰納的論証は strong または weak のいずれかである。真なる前提を伴った strong な論証は説得的 cogent と呼ばれる。
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